|
皇位継承の問題に関する現在の政府(小泉首相)の対応につい
ては、
・私的な位置づけの諮問機関(「有識者会議」)において議論
を進めている点
・この議論を基に法案化を進め、来年始めの通常国会に提出し、
国民的な議論のないまま短期間のうちに成立を期す方針が示
されている点
・当事者である皇室のお考えを真摯に伺う姿勢を持たない点
・会議メンバーに皇位継承に関する専門家が見当たらず、会議
日程(開催回数、開催時間等)の面でも不十分な点
・広く国民に基本的な情報(歴史的な経緯、意味合い等)を提
供し、同時に意見を聞くという積極的な姿勢、具体的方策の
ない点
などなど、様々な問題点が指摘されているところです。
ここで私は、次の点を最大の問題点として指摘したいと思いま
す。
それは、将来の問題(継承の安定性に関する不安)と現在の秩
序、決まり事(厳然たる継承順位)との切り分けが明確になさ
れていないという点です。
そもそも今回の議論の出発点は、将来の安定的な皇位の継承に
関する不安にあります。
皇位継承に関する議論は、継承資格や継承順位にも関わってく
るだけに非常にデリケートな問題となりますので、今回の議論
では、現在の皇位継承者(継承資格)、及び継承順位に立ち入
ることなく、これ以降の継承に関しての検討を行うことを明確
にし、無用な混乱を招かないように最大限の配慮をもって進め
るべきであったと考えます。
しかしながら現状では、女性天皇、女系天皇を認め、直系長子
優先の継承との方針のもと、現在の継承順位を覆して敬宮殿下
を秋篠宮殿下よりも上位に位置づける様な議論(シミュレート)、
報道が公然となされています。
既に明確に順位が定まっており、国民の側も皇族、継承者の側
もそうした前提、認識、期待や覚悟、責任感のもとに何十年も
の歳月を経てきたという皇室と国民の営みを蔑ろにし、過去に
遡る形で規定(法律)を適用させて従来の継承順位を変更する
ようなことは、実質的に国民が投票により(国会議員を通じて)
継承者を左右することとなり、天皇、皇室と国民との根本的な
関係性を損なう重大な背信行為になるものと考えます。
こうした行いは、「安定的な継承」を大義名分に善意の仮面を
装った皇位の簒奪行為であり、日本の歴史に対する大罪として
決して看過できない大問題であると考えます。
◇
今般の皇位継承、皇室典範の変更に関する議論を通じて、
・もし国会が法律によって伝統的な万世一系の原則を覆し、従
来の継承の在り方を変更するのであれば、法制度上の「天皇
(天皇位)」とは別の形で、本来の在り方に基づく伝統的な
天皇、皇室が存在することもあり得る
・元来、天皇の地位、存在は、国会や政府の認定によって成立
する意味合いのものではなく、逆に時の政府は、天皇に認め
られてこそ正式な政府としての正統性が担保される
といった形で、あらためて国会、政府と天皇の在り方に関する
整理の必要性が浮き彫りになってきたものと思います。
戦前(明治制定)の皇室典範は、国の最高法規として大日本帝
国憲法と共に欽定として定められ、その改正は国会、議会にお
ける議論を通じてではなく、皇族会議と枢密顧問に諮ることに
よって行われることになっていました。
これは、新たな政体を発足させるに際して、政府側として国家
運営の基本的な方針として従来の伝統(万世一系の天皇を戴く
君民共治の国柄)をどの様に踏まえて行くかという点を天皇に
示し、天皇との信義に基づく高度な基本合意(政体認証)を得
ることによって、はじめて正式な政権運営が可能になるとの認
識があったためと考えます。
そして、皇室典範がその天皇と政体側との基本合意書の意味合
いを持っていたため、国会において一方的に変更することは出
来ず、皇族と政体側の高度な立場でのみ関与、改正が可能な形
態になっていたものと思います。
天皇は憲法が出来る遥か以前から存在し、日本人(国民)の心
と(政府、法制を通じることなく)直接深い繋がりを持ち、国
民と共に長い歴史を歩んできた経緯がありますので、今回の議
論を機に、あらためて皇室典範のみならず、憲法も含めた形で
天皇と国民、国会、政府との関係の在り方について、和の国の
在り方について検討し直すことが重要と考えます。 |
|