長根英樹 メッセージ
 ― 論文&マスメディア掲載 ― 

小沢一郎政治塾 5月・6月課題−1「リーダーに求められる資質」
 

小沢一郎政治塾 5月・6月課題−1「リーダーに求められる資質」

「今日の政界リーダーに求められる資質」         長根 英樹 2001.06.27

 一、人類・文明史という視点からの歴史観、国家観、哲学、理念、あるべき方向性に
   ついてのビジョンを明確に有すること
   また、それらに基づく政策の立案・体系化(枠組み構築)能力、統合運用能力

 一、上記理念体系、政策体系、及び運用における折々の政治判断について、的確かつ
   効果的に説明・訴求すると共に、オープンにフィードバックを得て、相互の刺激、
   コラボレーション(共創)により内容の充実を図りつつ、これらの課程を通じて
   広く高次の共感・信頼を醸成するリレーション能力
   この共感・信頼に基づきマジョリティの支持を得て政策を実行する能力

 一、国家(コミュニティ)における折々の決断・決着、権力行使の重要性、すなわち
   時間・時期を司る役割責任の重さを認識し、決断を先送りすることなく託された
   民意(権限)に基づく健全な権力行使を全うする胆力、覚悟を有すること

                   ◇

 まず、細かい歴史はさておき、世紀・千年紀の単位で人類・文明史のステージ(段階)
 を捉える歴史観を持ち、それを踏まえて今後21世紀にあるべき国の役割、方向性、
 ビジョンを位置づける視点を持つことが重要と考えます。

 政治家は、国家運営の大きな理念・理想を示し、共感・信頼を以て導いていくという
 意味で、思想家、哲学者であり、宗教家の側面を持つともいえるでしょう。
 (政策、政治判断におけるプライオリティ、優先順位付けは、政治理念の現れであり、
  社会に一つの価値観をビルトインする行為そのものとなります。)
 その意味で、大局的歴史観に基づく独自の明確な国家観、哲学、理念は非常に重要で、
 そこから導き出される一貫した政策、折々の政治判断が信頼の大きな基礎となります。

 具体的に、大局的な歴史の捉えと国の役割、方向性という意味では、
  ・国際協調体制のレベルアップによる、全地球的枠組みからなる世界民主主義体制、
   統治システムの構築(国連の改革)
  ・これを推進する上での日本の役割
 以上の点についての明確な理念が求められると考えます。


 また、これら理念体系を実際の政策に落とし込んで立案し、相互調整の上で体系化
 (枠組みの構築)をすると共に、統合運用を行うマネジメント能力、すなわち理念を
 現実化する能力が重要と考えます。

                   ◇

 次に、コミュニケーションマインド、共感・信頼醸成能力について。
 政治家としての理念体系、政策体系、及び実際の運用能力(折々の政治判断)は重要
 ですが、それらを的確かつ効果的に説明・訴求し、多くの人々から共感・信頼を得て
 支持を広げていくことは更に重要であり、マジョリティの安定した政権基盤があって
 こそ政治的意志(理念、政策)の具現化が可能となります。

 政治には結果責任が問われ、どれだけ実行出来たかが重要となります。
 いくら理念、政策が素晴らしくても、それに理解を得ることが出来ず、少数派のまま
 一向に実行できないのでは、政治のプレイヤー足り得ません。
 優秀な学者や研究者、官僚、シンクタンクと同様です。

 政治家の政治家たる所以は、人に訴え、人の心を惹きつけ動かし、支持の和を広げ、
 やがてマジョリティの共感を以て現実社会を変え新たな時代を築いていくという点に
 あり、まさに心、人、社会、時代を変え動かすことに他なりません。
 説得こそが政治家の役割であり、それによる信託、権力行使の源泉はここにあります。
 議会内だけではなく、常に広く有権者の共感、支持を得るべく働きかけていくことが
 重要となります。

 コミュニケーションのテクニックではなく、自らの考えを伝え人の心を変えることが
 政治の役割であるとの認識、マインドこそが重要になると考えます。


 またその上で、実際に伝え、説得し共感・信頼を醸成するリレーション能力が重要と
 考えます。
 説得し共感・信頼を得るためには、まず自分の考えを分かりやすく伝えることが必要
 になります。
 更に、相手の考えを聞いて互いに理解の度合いを高めていくことが大切です。
 この様に、“私からあなたへ、あなたから私へ”という双方向のコミュニケーション
 による関係づくり、すなわちリレーションが重要となります。

 このリレーションによって、それぞれの立場や専門から意見を交換しつつ、相互刺激
 を通じてより良い方向へとステップアップさせ、共同で新たな価値を創り出していく
 というコラボレーションが生まれてきます。

 今日、情報技術、メディアの発達により、このリレーション環境は飛躍的に向上して
 おり、安価に幅広くスムーズにコミュニケーションを積み重ね、短期間のうちに広く
 深く理解・合意の総和(人数・理解度)を高めることが可能となってきました。

 例えば、政策の基本方向を示した原案段階でホームページにて公開をし、各方面から
 様々なフィードバックを得つつ細部も含めレベルアップさせていく方法があります。
 
 この様に市民参加型で政策立案に関与を求め、種々の検討や修正など立案過程を共有
 しながら合意を深めていくことで、政策の立案課程と理解浸透の課程を同時進行させ、
 最終案をとりまとめる段階では大方の理解賛同も得られるという様な形で、政治家と
 市民とが立案責任を共有しスピーディに政策を実行していくことが可能となりました。

 これは、現在のいわゆる無党派層の動き、すなわち政治への関与や共有感を期待する
 欲求に、政治の立場から真正面に応える姿勢となり、新たな政治と市民の関係性構築
 に繋がるものと考えます。
 真の資質を持ったリーダーの下では、無党派層はリーダーとの共有意識を持つ政権の
 応援団となり、ある程度の長期に渡って信頼の統治が継続されることでしょう。

 「IT革命」という表現や認識については、様々な評価、捉え方がありますが、情報
 技術、メディアの発達によりリレーション環境が高まり、政治と市民の新たな関係性
 が形づくられ、民主主義が更なる段階へとステージを高める可能性をもたらしたとの
 面においては、確実に「革命」足り得るものと考えます。
 
 新時代のリーダーには、この様な“ITと民主主義の進展に関する基本認識”が求め
 られると同時に、これらを活用して共感・信頼を醸成し、心を動かして支持を広げる
 というリレーション能力と基本的なメディアリテラシー、情報リテラシーが不可欠な
 資質になるものと考えます。

                   ◇

 第3に、健全な権力行使の重要性について。
 リーダー、権力の何たるかを考えるとき、「決断」が一つのキーワードになるものと
 考えます。

 国家あるいは種々のコミュニティにおいて、イエスかノーかの決断を迫られる場面が
 必ずあり、そこで決断をしないことの方が、様々な選択肢からなる最悪の決断をする
 ことよりももっと悪い状況をもたらす場合があります。
 それ故に、“ギリギリの場面においては、集団による意志決定を越えて一人の人間に
 最終判断を委ねることで結論を得る必要がある”との認識が生まれ、“コミュニティ
 を代表して決断を行いその責任をとる役割、としてリーダーを位置づけ選出し、国家、
 コミュニティの命運を託す”という統治システムが形づくられたものと考えます。


 従来の内閣では、「慎重な検討が必要」等の言によって決断が先送りされる例が多く
 見受けられました。
 そして、現在の支持率8割超という内閣でさえ、これに加えて
 「独断専行は避けたい、 … 私一人でやるべきものでもない、いろいろな方々の
  意見を聞いてやっていくのが、これまさに民主主義ではないか、 …」
 (平成13年6月6日 国家基本政策委員会合同審査会)
 などという言葉で政治決断を先送りする動きが見られます。
 
 本来、政治家として目指すところを訴え、これを実行するためにリーダーになるべき
 であり、リーダーになってから検討をするというのでは順序が違います。
 また、昨今は首相公選制の議論も盛んですが、公選による首相であれ、大統領であれ、
 議会制民主主義においては、もともとリーダーに、議会の承認がないまま“独断専行”
 で法案を決める権限はありません。
 リーダーとして目指す政策を堂々と議会に提案し、そこでの議論を通じて採決により
 決着を付けていくことこそが民主主義のあり方であると考えます。


 また常に、トップリーダーの決断は「変革」であれ「継続」であれ、いずれも責任の
 ある判断であり、権力行使そのものです。
 しかし実際には、現状を変えアクションを起こすという決断、権力行使における躊躇、
 責任認識に比べ、現状維持の決断、すなわち継続をさせるという権力行使においては
 あまりにその責任に無頓着で、権力行使であるとの認識さえ薄い様に感じます。

 行動を先送りすることは、現時点ではしない、すなわち“することよりもしないこと
 の方が有益であるとの判断を下した”ということであり、継続するという権力行使を
 行ったことに他なりません。

 いわゆる「無作為の作為」ですが、これによる弊害の端的な事例が、先日の熊本地方
 裁判所ハンセン病国家賠償請求訴訟判決において示されました。
 本来ならば変えなくてはならないものを、何もしない(無作為)という決断(作為)、
 トップリーダーの権力行使によって、長年に渡って放置を続けて来た事例です。

 有権者、ジャーナリズムとしても、「継続」という権力行使に対して、「変革」の際
 と同様に監視の目を光らせるべきでしょう。
 しかしそれ以上に、リーダーとしては、“不作為(継続)の場合は責任が減免される
 かの如き幻想”を抱き、「慎重な検討」などという言葉で決断を先送りすることなく、
 常に、“進むも決断、留まるも決断、いずれも権力の行使であり、歴史において時間・
 時期を司ること、これがリーダーの役割責任である”との認識を持ち、ひとり責任を
 負うことをおそれることなく、堂々と権力の行使を行うべきであると考えます。

 リーダーは、責任を負うことこそが役割であると自覚をすると共に、民意による選出、
 権力の委譲に応えて、後世に責任を持って決断、権力行使をしなければなりません。
 その胆力、覚悟が重要であると考えます。

 これは本来、リーダーの「資質」という意味合いの話ではなく、基本的な役割認識、
 前提条件というべきものであるとも考えますが、現状においてあまりに欠如が目立つ
 部分と捉えられますので、あえて資質として論じました。

                                     以上


メッセージ一覧へ


 ■ Copyright 長根英樹     E-mail:nagane@kimono.gr.jp 

WebNote Clip ライセンス取得/設置 長根英樹