長根英樹 メッセージ
 ― 論文&マスメディア掲載 ― 

小沢一郎政治塾 後期4月課題「日本再建のプラン」
 

小沢一郎政治塾 4月課題「日本再建のプラン」      長根 英樹 2002.04.30

 現在の日本が直面する深刻な課題、本質的な課題として、私は、個の自立、意識改革
 の必要性が挙げられるものと考えます。

 「日本株式会社」「世界でもっとも成功した社会主義モデル」等と評された、戦後の
 いわゆる「キャッチアップ(追いつけ追い越せ)体制」「護送船団方式」から転換し、
 「フリー、フェア、オープン」という新たな価値観の下で、個々人の可能性と活力を
 引き出しつつ、健全な競争原理を活かして全体のダイナミズムと質を高めていく方向
 へと社会構造を改革する必要性については、総論としてコンセンサスが高まっている
 ものと考えます。
 また、現状における制度や仕組み等の具体的な問題点についても、大分整理がされて
 きているものと考えます。

 しかしながら、10年もの長きに渡って改革が叫ばれ、改革の必要性とその方向性、
 改善の具体策について大筋ながらも共通理解が広まってきたのにかかわらず、依然と
 して具体的な改革が進まない閉塞的な現状、政治選択(投票行動)の結果を顧みる時、
 あらためて制度や仕組み等「方法論(必要条件)」とは別の根本部分、すなわち「目
 的論(十分条件)」としての個々人の意識改革の必要性が認識されるものと考えます。

 確かに、制度や仕組み等の改善が進めば個々人の自由なチャレンジがやりやすくなり
 フィールドも広がります。
 しかし、「改革」すなわち「自由と自己責任」に対する個々人の不安や怖れが大きい
 ままの状況では、制度や仕組み等の改善があってもこれが活かされないのみならず、
 逆に改善、現状変革への抵抗が大きくなります。
 最後に改革を現実足らしめるものは、個々人の意識、行動に他ならないという点を再
 認識する必要があるものと考えます。

 ここで、あらためて「改革」、「フリー、フェア、オープン」という新たな価値観に
 よってもたらされる真の豊かさ、多彩に自己実現を図る個の在り方、活力にあふれる
 社会像等トータルなビジョンを示して怖れや不安を取り除くこと、また個々人の意識
 改革こそが根本課題と位置づけ直して力点を置くことが重要と考えます。


 改革には、常に期待と不安の両面がつきものと思いますが、いかに不安や怖れよりも
 期待感を先行させていくか、自己変革への先駆的なチャレンジを誘導かつサポートし
 大きなムーブメントへと繋げ盛り上げていくかが正否を分けるものと考えます。

 「フリー、フェア、オープン」を実践することで新たな時代の豊かさを見つけ、自分
 らしく納得できるライフスタイルを築いていく先進的な成功事例が、身近なところで
 等身大の形で出現していくのを目の当たりにすることによって、一人、またひとりと
 自らの意志で一歩前に踏み出していく。
 この様な形で、開明された自発的な流れによって個々人の意識改革を進め、社会全体
 に広げていくことこそが、日本再生へと繋がるものと考えます。

                    ◇

 「フリー、フェア、オープン」の改革、すなわち「自由と自己責任」の原則に基づく
 マインド、行動様式、社会構造を支えるバックボーンとなるもの、またいち早く価値
 転換を図ろうとする個々人の先駆的なチャレンジをサポートし成功事例を生み出す鍵
 となるもの、それは「情報」に他ならないと考えます。

 今春からの「ペイオフ解禁」に象徴される様に、今後「選択結果に対する自己責任」
 が各場面において厳然と要求されてくる以上、自由と裏腹な「選択のリスク」を理解
 して自らこれをマネジメントし、危険度合いや危険可能性を低減していくことが必要
 となります。
 リスクを踏まえて納得の選択をしていくためには、選択のための情報を得て、これを
 分析し結論を導いていく「情報活用力(情報リテラシー)」が重要不可欠となります。

 また、改革に伴うマイナス面としての自己責任のリスクを抑えるだけでなく、プラス
 面を活かして新たな豊かさを探ったり豊かさの質を高めていく意味では、「共感」が
 大きなテーマになるものと考えます。
 自由でオープン(解放闊達)な雰囲気の中、他者との間で想いや楽しさ、価値の共有
 を図っていくこと、ほんのささいなことでも心の通い合う機微に喜びを感じること、
 知的な影響力や人格的な影響力によって人間関係を広げ信頼を深めていくこと。
 新たな時代の豊かさは、この様な「共感」による心の豊かさの価値や比重が高まって
 いくものと思います。
 そして、他者との交流を通じて心の豊かさを高めていく上でも「情報活用力」が重要
 不可欠となります。

 更に、この「共感」は経済、科学、文化、趣味等幅広い面での「創造」にも繋がり、
 新たな時代のクリエイティブスタイル(コラボレーション:相互刺激による共同創造)
 を支える核となっていくものと考えます。
 従来の境界や枠を越えた様々な立場、専門からの相互交流を通じて、多彩な刺激や共
 感を授受し合うことによって新たな創造が生まれていき、社会の活力が高まっていく。
 こうした中で、新たなビジネスモデルの構築や起業、様々な形での連携やコミット等
 各セクターの融合なども盛んになり、経済面でもコミュニティ運営等のパブリック/
 ソーシャルな面でも底堅い社会発展の潮流が出現し、物心両面での豊かさの向上へと
 繋がっていくものと考えます。
 こうした「創造(コラボレーション)」においてもまた「情報活用力」が重要不可欠
 となります。

                    ◇

 日本の再建にあたって、その根本課題としての個の自立、意識改革を進めていくため
 には、個々人の「情報活用力(情報リテラシー)」向上をサポートすることにより、
 自己変革に向けた先駆的なチャレンジを誘導、バックアップしていくことが重要と考
 えます。

 そして、この「情報活用力(情報リテラシー)」の獲得、向上のための最大の方策は、
 個人レベルで自由に情報の受発信をすることが可能となる様に環境整備をすることで
 あり、「国家として情報アクセスを保障し、これを国民の権利と位置づける」という
 情報アクセス権の明確な定義、国家としての情報戦略提示であると考えます。

 かつて日本国中に道路を張り巡らし、人物の移動、流通を促進することで社会経済の
 基礎をつくり活力を高めてきたのと同様に、新たな時代の社会基盤として広帯域情報
 ネットワーク(ブロードバンドインターネット)を全国整備し、これへの無料接続を
 国家として保障することにより、政治の立場から改革に向けた明確な意志と方向性を
 目に見えるメッセージとして発信することが重要と考えます。

 情報や知価に重きを置き、これらの個々自由な流通を促進することによって、個々人
 の自立、意識改革が進みます。
 情報の活用、幅広い相互交流を通じて、一方で他者との共感や創造の質を高めつつ、
 また一方で確かな選択により自己責任のリスクをマネジメント(コントロール、低減)
 していくことが出来ます。
 「フリー、フェア、オープン」の社会の中で、活き活きと多彩な形で自分らしい自己
 実現を追求していくことが出来ます。

                    ◇

 現在、日本国内には幾重にも情報基幹幹線(光ファイーバーケーブル)が敷設されて
 いるにもかかわらず、これが有効に活用されていない状況があります。
 「ラストワンマイル」といわれる様に、末端の回線整備、特に地方地域における情報
 アクセス環境は遅れていて、著しい格差が生じています。

 ここで重要なのは、こうした格差や整備遅れの原因が、「ラストワンマイル」の回線
 整備負担そのものにあるのではなく、末端の地域回線網を基幹幹線へ繋ぐ際の接続料
 負担が大きいことにあるとの認識だと考えます。
 現在の地域ケーブルテレビ会社におけるネットサービス面での大きな課題も、地域内
 回線網整備の負担よりも基幹幹線への接続料にあり、この結果、本来であれば技術的
 にはもっと高速の通信サービスが可能であるのにかかわらず、速度を抑えて基幹幹線
 への情報流通量を分け合ったり、料金の低下が進まない状況にあります。

 本来、インターネットは各ネットワーク間でお互いに情報の送受信を行いメリットを
 分かち合う「相互主義」の精神が基本にあるものと思います。
 現在の基幹幹線側と地域の末端回線側との関係で見ても、基幹幹線から地域へと情報
 が流れる場合もあれば、逆に地域側の情報発信を受け取るために地域から基幹幹線へ
 と情報が流れる場合もあります。
 基幹幹線に繋がるネットワークが増えることは、基幹幹線側に負担となるばかりでは
 なく、より一層情報が充実する、可能性が広がるという意味でメリットも大きくなる
 訳ですから、本来の「相互主義」の精神に基づいてお互いに繋がり合う方向を基本に、
 高い見地から再構築を進めていくことが重要になるものと考えます。

 「フリー、フェア、オープン」の改革精神は、ネットワーク本来の「相互主義」とも
 親和性が高く共通の価値観に基づいているものと思いますので、情報面での構造改革、
 情報回線のバックボーンの取り扱いにおいても、従来の既得構造にとらわれることな
 く、一人ひとりのユーザーやネットワーク全体のメリットを最優先にし、政府として
 基幹幹線の解放を進めていくことが重要と考えます。


 昨今のキーワードの一つともなっている「民業圧迫」という言葉の裏には、「業」対
 「業」(「民業」対「官業」)という狭い範囲の中でイニシアチブを競う発想が感じ
 られ、消費者やユーザー、社会全体にとってのベストなサービス形態を論ずる姿勢が
 希薄な面が見受けられます。

 政治の立場では、堂々と国家国民を見据え、社会全体にとっての在るべき方向を示し、
 その中で民間の競争原理を活用していく形で「官」と「民」の関係を形づくっていく
 ことが重要と考えます。
 また、新公共管理(NPM)という考え方においても、こうした捉え方が基本になる
 ものと考えます。
 
 具体的には、入札制などにより競争原理に基づいた価格にて、既存設備の買い上げや
 借り上げ、新規の末端回線整備、及びこれらの運用を行い、民間の活力や創意工夫等
 を活かしつつ国家保障にて情報回線整備、運営を行っていくことが重要と考えます。

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 道路の例で考えてみても、通学や通勤、買い物などで歩いて移動(道路利用)をする
 分においては利用料は無料(税金での負担)で、1kmの道のりでも2kmでも歩く
 距離に応じて料金が変わる従量的な負担はなく、これが当たり前となっています。
 そして、自転車で移動をしたい人は個人負担で自転車を買い、自動車で移動をしたい
 人は個人負担で自動車を買い、その重量に応じて道路負担の税金を払います。
 
 情報網においても、各戸(公共道)までの回線整備(一部山間部等は無線回線等)を
 国として行い、コンピュータや電話など情報機器の購入は各個人負担にて行う。
 企業等で特別に専用の回線が必要な場合は、別途自己負担にて個別に整備を行う。
 こうした道路網整備と同様の考え方に基づいて枠組みを捉えることが重要と考えます。


 この様な形で全国的な情報アクセス環境の整備が完成するならば、各種の規制緩和策
 よりも大きな社会インパクト、変革推進作用をもたらすものと考えます。

 従来の改革論議では、規制緩和、制度改革など自由な活動の障害となっているものを
 取り除く方向や垣根を下げる方向(マイナス面の除去)を目指しながらも、既得権者
 の抵抗によって実際の改革がなかなか進んでこなかった面がある様に思います。
 ここで発想の転換を行い、個人の活力自体を高める方向(プラス面の増強)によって
 現在の障害や垣根を乗り越える動きをサポートしていくならば、既得権者の側も従来
 の既得構造に固執ことなく、新たな流れの中で有利な展開を図ろうと変革推進の側に
 立ってチャレンジを始めるものと思います。
 結果、従来の既得権者、非既得権者両方のチャレンジ、相乗作用により全体の改革が
 加速していくものと考えます。

                    ◇

 情報活用環境の整備においては、もちろんのこと情報アクセスのインフラ面だけでは
 なく、情報活用のソフト面においても整備や進展が重要になってきます。
 しかしながら、ソフト面の研究開発、実証提案等を行うに際しても、また業務レベル
 での競争や改善を行っていくに際しても、多くのユーザーによるアクセスやフィード
 バックがあってこそ有効可能となる面がありますので、インフラ面の基礎的な整備は
 ソフト面も含めた総合的な情報活用環境の大きな進展に繋がっていくものと考えます。
 更に、ハード&ソフトの両面に加えて、個々人の情報に対する意識、活用能力向上の
 面でも、学習プログラムや方法論等の開発によって進展が図られるものと考えます。

 情報活用環境の整備、情報活用力(情報リテラシー)の向上により、他人やムードに
 過度に流されない、自己責任を意識した自律的な情報判断、確かな選択を行うという
 個々人の動きが広まっていくと、社会全体の調整淘汰機能も高まっていきます。

 本来、民主政治や市場経済は「市民選択型の秩序形成システム」であり、市民の選択
 (選挙の投票選択、商品等の購買選択、株等の投資選択、就職における職業選択等)、
 その総和によって優劣秩序が決まったり淘汰が繰り返される過程を通じて、より良い
 ものが提案&選択され、結果としてダイナミック(動的)な形で社会全体が発展向上
 していく仕組みになっています。

 「フリー、フェア、オープン」の改革は、この「市民選択型の秩序形成システム」を
 本来の形で機能させることに本質があり、そのためには「選択の質」と「創造の質」
 が重要な鍵となります。
 情報アクセスの保障は、個々人の情報活用力(情報リテラシー)を高めると共に、情
 報に競争原理をもたらし、ジャーナリズムの世界にも淘汰や変革の流れを起こします。
 ジャーナリズムの質的向上によって、より一層個々人の、そして社会全体の「選択の
 質」と「創造の質」が高まっていき、更にそれがまたジャーナリズムへの牽制となり
 情報の質的向上へと反映されていく好循環が生まれることとなります。

                    ◇
 
 こうした形で、個の自立、意識改革の動きが進んでいくに連れ、あらためて自分自身
 を見つめ、アイデンティティを再確認する動きも高まっていくものと考えます。

 そして更には、地域(コミュニティ)や社会を見つめ、国を見つめという形で、日本
 について、和文化について温故知新で見つめなおし、その魅力や文化価値を、現代に
 新たな形で再構築していこうとする動きが興ってくるものと考えます。

 「フリー、フェア、オープン」と「和」の価値観の融合、昇華によって、経済、文化、
 国際交流等各面で新たな時代の国づくりが進んでいくものと考えます。


 新たな時代に先駆けた自己変革のチャレンジを、情報の面から誘導、バックアップし
 個々人の自立と意識改革を進めていくことによって、社会全体の変革を加速させつつ
 日本再生に向けた改革を進めていくことが可能になるものと考えます。
                                     以上


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