長根英樹 メッセージ
 ― 論文&マスメディア掲載 ― 

「米沢日報」2002.5.12
  IT提言・地域情報化特集 〜 地域独自の情報教育モデル
 

 「米沢日報」 2002.5.12 付

【IT提言・地域情報化特集】
  〜 地域独自の情報教育モデルの開発により地域活力の向上を

 この4月から小中学校では新しい学習指導要領の本格的な導入(完全実施)が始まりました。
 完全週5日制に伴う単位時間及び学習内容の削減による“ゆとり教育”、自ら学び自ら考える“生きる力の育成”、また各地域各学校毎の創意工夫を生かした特色ある教育及び学校づくりが大きな柱となっています。
 新設の「総合的な学習の時間」では、体験的な学習や問題解決的な学習の充実が目指されており、その他「情報学習」についても必修化されるなど重点がおかれています。

 現状における情報学習は、学校毎、教師毎に大きく取り組みに違いがあるのが実情で、教師個人への依存や負担の度合いが大きく、熱心な取り組みによる好事例も見受けられるものの、全体的には、“情報学習”というよりも“パソコン学習”になりがちで、本来手段であるべきものが目的化している様な面があるともいわれます。
 情報化の急速な進展により、情報教育の方向性や方法論の確立がまだ追いつかない状況で、全国的に模索をしている段階にあります。
 置賜地域は、地域ケーブルテレビ会社によるインフラ面での恵まれた通信環境を有していますので、その優位性を活かしつつ、ソフトやノウハウの面からも地域独自の情報教育モデルを開発することで地域活力を高めていくと共に、全国に先進事例を発信していく役割を担えるものと考えます。

 今後の課題としては、いかに“パソコン学習”から総合的な“情報学習”“情報リテラシー教育”へと進展させていけるかがテーマとなります。
 また、教師個人への技術的な面における過度な依存や負担の度合いを低めつつ、教師本来の分野で指導に専念が出来る様にすると共に、その指導スキルを地域全体の教育ノウハウとして継続的に高めていける様な体制や環境の整備、地域共通の情報基盤の構築が重要になるものと考えます。
 
◇ ◆ ◇

 ここで今後重要となる「情報リテラシー」について整理をしてみたいと思います。
 「リテラシー」とは、元来「識字能力」、読み書きの能力をいいますが、表層的な文字読解力だけでなく、映像や音声など幅広いメディア表現の真意を見抜く力が必要という意味から「メディアリテラシー」という枠組みで捉えられたり、更には情報全般を深く理解し使いこなすことの重要性から昨今になってより広い概念として「情報リテラシー」という形で捉えられてきました。

 具体的には、「情報を受け取る能力」と「情報を発信する能力」に加え、「情報の受発信を通じて他者と交流し価値を創造する能力」となります。

情報リテラシー
 
◇情報を受け取る能力
 情報の的確な検索収集能力の他、情報の真偽や意図的な誘導表現等を見抜く力。情報を分析整理して体系化する力。

◇情報を発信する能力
 自分自身の考えや気持ちを分かりやすく伝える力。電子メール等でコミュニケーションをする能力。ワープロ等を使い文書としてまとめる能力。ホームページを作り情報発信をする能力。これらを効果的に行うために、文字情報の他に画像や音声動画等を用いて表現する基礎的な能力など。

◇情報の受発信を通じて他者と交流し創造する能力
 先の能力を踏まえて、他者と交流し相互刺激の中から共感を深め、新たなものを創造していく力。他者との、あるいは集団の中でのコミュニケーションにおいて、いかにスムーズに関係づくりを行うかという能力。思いやりや心くばり、個人の自由とコミュニティ内における義務制限のバランス等を心得て交流する能力。これらの交流を通じて、価値を創造する能力。

 右記の様に捉えると、語学力やパソコン操作力は、情報リテラシーの前提、手段となる基礎能力といえます。
 また、真の「情報ディバイド(格差)」は、パソコン操作力やネットアクセス環境といったデジタル面の要素よりも、自由な選択と自己責任の社会における情報活用の重要性や可能性をどの様に理解しているかという認識程度の差によりもたらされる度合いが大きいものと考えます。

 情報リテラシーの究極は、自分で自由に選択を行い、その選択の結果に責任を持ちつつ、自分の可能性を追求し高度な自己実現を図っていくという自律自己責任型の社会、ライフスタイルにおける情報選択の重要性や情報交流のもたらす可能性を認識し、コミュニケーション能力や交流能力を踏まえて的確な判断、共感の醸成、価値の創造等を行っていく「総合的な情報活用能力」にあると考えます。
 
◇ ◆ ◇

 現在中学校では、「技術・家庭」の技術の分野で情報とコンピュータの学習が位置づけられています。
 パソコン操作の技術面での学習はこうした時間で行うとしても、総合的な情報活用という面での学習は、技術担当教師と担任教師の役割分担により、生徒一人ひとりに密度の濃い指導を行っていくことが重要となります。
 その意味では、「総合的な学習の時間」などを活用した担任教師の果たすべき役割が大きくなるものと考えます。

 こうした状況を踏まえると、担任教師がことさらコンピュータの技術的な面での負担を苦にせずに、情報活用面での指導に専念出来る様な仕組みが必要となってきます。
 現在は、各学校各教師毎にそれぞれ市販のアプリケーションソフトを選択し、異なる操作体系、異なる書類形式で学習を進めている状況が見受けられます。
 場合によっては、進級、進学した際、あるいは地域内での転校等の際に、同一の学習内容であっても全く別のアプリケーションを用いることによって、学習の本質とは離れた面での操作習熟が二重に必要になってくることも考えられます。
 また、せっかくの学習成果を保存蓄積し、閲覧出来る仕組みを考える意味からも、非常に煩雑となりコストも掛かります。

 そこで一つの解決方法として提案したいのが、行政として各校共通の簡易的な情報学習システムを整備していく方向です。
 担任教師が容易に活用することが出来ると共に、操作面ではなく、真の情報学習、すなわち構想や取材、まとめや表現など情報発信の面で指導に専念出来る様な簡易的な情報発信システム(ホームページ簡易作成システム)を地域オリジナルで構築し、各校に整備をします。
 ホームページ簡易作成システムの概要は、空欄に文章(文字データ)や画像(デジタルカメラデータ等)を入力し登録ボタンを押すだけの仕組みで、5ページ程度のホームページが持てるというものです。
 生徒が各自のパスワードを用いることで、1人が一つのホームページを持ち、いつでも何回でもオンライン操作で即時にページ内容の修正や更新を行うことが出来ます。

 担任教師の指導の下、「総合的な学習の時間」などを用いて、例えば地域をテーマとした自主研究等を行い、その成果をホームページで発表するといった形で活用することが可能です。
 生徒は汎用的な簡易操作により、全国、全世界に向けて、一個人の立場で情報発信(自己表現)をすることの楽しさや可能性の広がりを体感しつつ、情報リテラシーを向上させて行くことが出来ます。
 担任教師は、コンピュータの操作面、技術的な面ではなく、問題を捉える視点や情報収集の方法、交渉等の基本マナー、情報のまとめ方、表現の仕方、情報発信の反作用など総合的な情報活用という面で指導に専念が出来ると共に、他クラスや他校との共通条件での比較により刺激を受けたり、指導ノウハウを得たりしながら継続的に教育スキルを高めていくことが出来ます。
 地域としては、生徒の学習成果を地域の情報資産として蓄積して行くことが出来ると共に、地域をテーマとした学習を通じて地域の魅力を再発見した生徒による将来の地域貢献や愛郷心の高まりを期待することが出来ます。
 また、生徒の取材やホームページでの紹介を通じて、地域の大人の側、産業や文化の面でも創意工夫、再活性化の動きが期待出来ますし、生涯教育、生き甲斐といった面での広がりも期待されます。
 もちろん教育ノウハウという面でも、教師の移動に関わらず、地域に固有の形でスキルを蓄積し、継続的に高めていける共通基盤を持つことが出来ます。
 こうした地域全体での情報教育モデルを開発すると共に、その内容を高めていくことが出来るならば、全国に向けた先進事例として提案をしていくことが可能で、地域産業の広がりにも繋がって来るものと考えます。

 具体的なプロジェクトの進め方としては、ノウハウを蓄積しながらの段階的な導入や予算の都合等を勘案し、当初は既に十分なコンピュータの基礎スキルを有する中学3年生を対象としてシステム運用を行っていく方法が考えられます。
 実際の活用により、システム面のみならず、教師の指導面等も含めて様々な観点からのトライ&エラーを通じてノウハウの蓄積を行っていくことが重要となります。
 この際には、行政(教育委員会)と各学校(現場教師)に加えて、情報専門家(コンサルタント等)との連携により、定期的な会合を持って各種の検証や共有を進めつつ、ノウハウを地域の資産として体系化して行くという継続的な体制を整備、運営していくことが重要と考えます。
 この際の情報専門家は、総合的な情報リテラシー教育のプログラム面だけでなく、次のステップとして情報教育と地域情報化をうまく連動させて、トータルで地域活力を高めていく方向を視野に入れた形での役割や関与を期待して人選を行っていくことが重要となります。
 
◇ ◆ ◇

 今後、「総合的な学習の時間」における学校と地域の連携の在り方も含めて、市民として、親として、地域としての情報教育プログラムについて議論を深めていくことが重要と考えます。
 また、地域メディアには、この面でのコーディネイターの役割を期待するところです。
 全国に先駆けて置賜地域から、地域市民が一体となった形でこうした先進モデルを是非創り上げていきたいものだと思います。

長根英樹 ながねひでき
1966年岩手県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。
M電通パブリックリレーションズに入社。主に企画部署で
企業/自治体の広報戦略やインターネットコミュニケー
ションを研究実践。
山形出張が縁で米沢織の魅力に惹かれ、きものの世界へ。
現在は、きもののプロデュースと地域情報化に取り組む。
http://yonezawa.kimono.gr.jp/

 

◇ホームページ簡易作成システムの入力画面
 ページ毎の空欄に文字を入れるだけで自動作成が可能。
 http://yonezawa.kimono.gr.jp/school/1chu/2002/3/3-1/input.html


◇ ホームページ簡易作成システムを使用して実際に作成した
 ホームページ例
 http://yonezawa.kimono.gr.jp/school/1chu/2002/3/3-1/1_index.html


◇ 米沢市を例にした情報教育のプロトタイプシステム
 http://yonezawa.kimono.gr.jp/school/
 

米沢日報 2002.5.12付 第2面


メッセージ一覧へ


 ■ Copyright 長根英樹     E-mail:nagane@kimono.gr.jp 

WebNote Clip ライセンス取得/設置 長根英樹