小沢一郎政治塾 5月・6月課題−2「循環型社会を推進する具体策」
「太陽/水素エネルギー体系
〜 水素媒介による循環型エネルギー社会の構築に向けて」 長根 英樹 2001.06.27
■はじめに
循環型社会の構築、その本質は、単にリサイクルを進めるということではなく、我々
の暮らす自然系、地球環境の有限性を認識し、トータルで持続可能な社会システムを
つくり上げることであり、社会の仕組みから価値観までも含めた永続性のある新たな
文明を構築することに他ならないと考えます。
持続可能な社会システムへと転換を進めるにおいて、各素材資源の段階的有効活用は
重要な取り組みテーマになるものと思います。
しかしながら、より主要で深刻な問題となるのがエネルギーの持続的な活用であると
考えます。
私は、以前から地球環境問題、エネルギー問題については大きな関心を持ち、PR/
コミュニケーションの立場から社会変革を模索して来た経緯(参考別添)があります
ので、持続可能なエネルギー体系の構築に向けた具体策について論じることとします。
■一次エネルギーの転換 〜 ストック化石燃料からフローのクリーン再生エネルギーへ
従来のエネルギー利用における最大の課題は、はるか悠久の歳月を通じて地球に蓄積
された有限のエネルギー資源である石油、石炭、天然ガス等「化石燃料」をメインの
一次エネルギー源として、“ストック切り崩し型”の一方的消費を行ってきたことに
あると言えます。
また、地球環境への負荷という面からも、これら「化石燃料」の燃焼により発生する
炭酸ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物等は、地球温暖化や酸性雨の要因として自然許容
量の限界となっており、早急な抑制策が求められている状況です。
今後は、常時太陽から地球にもたらされるエネルギー資源、短期サイクルで再生性の
あるエネルギー資源、あるいは保存性のない放出型のエネルギー資源等を中心とした、
いわば“フロー有効活用型”へ、一次エネルギー源を転換することが求められます。
具体的には、太陽光、太陽熱、風力、水力、波力、温度差、バイオマス、地熱等々が
あげられ、これらは、量の豊富さ(再生性)に加えてクリーンであるという面からも
持続性の高い理想のエネルギー源となります。
ここで、太陽がもたらす大いなる恵み、自然フローエネルギーの豊富さについて。
これらは概してエネルギーの密度が高くないために、人類の活動を支えるエネルギー
源の主役足り得るという認識はほとんどありませんでした。
しかし地球レベルで見るならば、非常に広範囲に渡って絶えることなくもたらされる
エネルギーであり、低い密度を補って余りある全体量を有します。
例えば、太陽光エネルギーの場合は、
「受光面積的においては地球の乾燥地帯の数パーセントあれば全世界のエネルギー
需要を賄える」
との見地があります。
(http://www.nedo.go.jp/journal/report/811/811-1.html)
また、風力エネルギーはこの10年でもっとも劇的な成長を示したエネルギーと言え、
全世界の発電量は約7倍に増加し、単位エネルギー当たりのコストは1/3以下へと
低減しました。
これは、明確な政治の方向づけと政策誘導によりもたらされた成果であり、各種税制、
補助金等の経済的インセンティブを有効に用いた市場競争の刺激により、研究開発の
進展や技術面でのブレイクスルーさえ起こり得る可能性を示すものと捉えられます。
■2次エネルギー電力の問題点 〜 変換時のロス、非蓄積性、送電ロス
現在、エネルギーの利用形態としては、大規模工場や自動車エンジン等において一次
エネルギーとして化石燃料のまま燃焼利用される他、オフィスや一般家庭においては、
電力という形で二次エネルギーに変換され広く利用されています。
この電力を得るために、従来は、化石燃料を主に一次エネルギー源を燃焼させ、その
熱で大量の湯を沸かし蒸気で羽を回して電気に変換するという、いわば“蒸気発電”
ともいうべき非常に原始的な仕組みを用いてきました。
当然、エネルギーの変換効率も悪く、一次エネルギーとして保持するエネルギー量の
40%以下しか電気エネルギーに変換できずに、半分以上を熱エネルギーとして放出
している状況があります。
また、電力エネルギーの大きな弱点として、有効に蓄積をすることが出来ないという
点があります。
それ故に、一番電力を消費する真夏の昼間、ピーク時(年間最大使用時)に合わせる
形で発電設備、供給体制を整備すると共に、ピーク時以外には、臨機応変な稼働調整
(発電設備全体のオン/オフ切り替え)や細かな出力調整(大量燃焼構造により蒸気
を微調整すること)が難しいため、慢性的に余剰電力として余らせているというアン
バランスな全体像となっている状況があります。
これに加え、現在の送電線によるエネルギー輸送においては、電線の抵抗による送電
ロスも無視できない課題となっています。
■新たなエネルギー媒体:水素媒介によるエネルギーのストック、輸送
上記、電力エネルギーの諸課題を踏まえ、エネルギー(電力)を蓄積し輸送する媒体
として、「水素」の優位性があらためて注目されています。
水素は、燃焼時に酸素と結合して水しか発生しない非常にクリーンな特性を持ちます。
(2H2+O2 → 2H2O+エネルギー)
ガスタービン方式のコジェネレーション発電においても高い変換効率で優秀ですが、
直接電気変換を行う燃料電池は高効率な上に小型化が可能であり、家庭電源としては
もちろんのこと、パソコン等の電源としても応用が見込まれます。
また、水素は、蓄積の出来ない電力を有効に保存するのにも適しており、余剰電力を
用いて水の電気分解を行うことによりクリーンに変換することが可能です。
太陽、風力等の自然フローエネルギーは、製造不安定性があり、必要なときに必要な
だけ発電できなかったり、また不必要なときに必要以上に発電される場合があります。
しかしこれは、製造した電力エネルギーを電力のまま利用するという既成概念で評価
する見方であり、余剰時には水素に変換し蓄積する方式を併用するならば、発電量の
大小を均してトータルの発電量(水素も含めたエネルギー量)で評価することが可能
となります。
■新たな文明の構築 太陽/水素エネルギー体系 〜 永続性の豊かさと真理
将来は、太陽の恵みを主とした自然フローの一次エネルギーを用い、全地球的な観点
からそれぞれの地域に見合った多極分散型の発電を行い、余剰時には水素に変換して
国際パイプラインで輸送、蓄積を行う、いわば「太陽/水素エネルギー体系」が構築
されるものと考えます。
資源量(ストックからフロー利用へ)の面からも、また地球環境への負荷の面からも
持続性のあるエネルギー体系。
永続性、これは無理がないことであり、自然と調和した生き方の証明となります。
自然と一体となる価値観は、真理にかなう豊かさを実感させ、新たな文明の確固たる
基盤となり得ます。
日本は、地球トータルの視点でエネルギー製造・輸送の最適化を提言・推進し、結果
として実経済・エネルギー面での国際的相互依存体制を進めることで、実態面からも
国際協調の枠組みを強化し容易に離れ難いものとして機能させ、最終的により高次の
世界民主主義体制へとステージアップさせて行く先導役を果たすべきと考えます。
大きな理念、理想の下、経済援助、技術の援助(ODAの戦略的有効活用)を通じて
真の信頼関係、共通の夢を築いていくことが重要と考えます。
■理想の太陽/水素エネルギー体系構築のステップとして天然ガスエネルギーにシフト
将来、究極の太陽/水素エネルギー体系を目指す上で、その移行ステップとして天然
ガスに比重をシフトさせ、将来を見越した基盤整備、研究開発と現実面での効率化、
環境負荷低減を図っていくことが重要であると考えます。
天然ガスも、燃焼時に炭酸ガスを発生する化石燃料である点に変わりはありませんが、
石炭、石油等他の化石燃料と比べて環境汚染物質の排出量は群を抜いて少なく、環境
負荷の少ないクリーン度の高い燃料と言えます。
加えて、発電時におけるコンバインドサイクル、コジェネレーション等の技術により
非常にエネルギーの変換効率、利用効率も高いという特徴があります。
また、将来の水素輸送のためには基幹のパイプライン敷設が必要となりますが、それ
への活用を見越しつつ、現段階では天然ガスを輸送するパイプラインを敷設整備する
ことは、よりスムーズに水素媒介エネルギー体系へと移行する布石ともなります。
実際に、天然ガスと水素の混合ガスによる燃焼においては、その排出汚染物質の量は
大きく低減します。
また、燃料電池開発においても、天然ガス+水素の混合ガスによる方式は、水素単独
へと移行がしやすいメリットがあります。
当初は天然ガスを中心とした水素混合ガスで、後に水素の製造・輸送・利用技術等の
進展に合わせて水素の混合比率を高めつつ、最終的な完全水素媒介のエネルギー体系
へとスムーズに移行させていくことが理想のステップになるものと考えます。
日本縦断の基幹パイプラインを敷設し、自然フローエネルギーや従来の発電における
余剰電力を用い製造した水素をパイプラインで受け入れ買い取ることで、自然フロー
エネルギーの市場を刺激し研究開発を促進すると共に、既存の発電設備の有効利用を
図ることが可能となります。
従来の電力状態での買い取りに加え、水素に変換した状態でより高い買い取りを行う
ことで、市場メカニズムによって水素製造の技術開発を促進します。
このパイプラインは、日本国内のみならず、ロシアや韓国、中国等とも結び国際的な
パイプライン網としていくことが重要と考えます。
また、国内整備においては、パイプライン単独の敷設ではなく、将来に向けた抜本的
社会資本整備、ドリームプロジェクトとして、共同溝方式により各種ライフラインと
共に整備することが重要と考えます。
政治の責任、リーダーシップにより理念とグランドデザインを示し、夢と理想を共有
しつつ、各種の税制、補助金、規制等の政策誘導により、人々のマインドを誘導し、
社会を誘導し、理想社会へと転換を進めていくことが政治の役割であると考えます。
現段階では、自然フローエネルギーへの完全転換が難しい技術状況であっても、政治
の決断により方向性を示し、英知を結集して実現へのステップを進めることが重要と
考えます。
以上 |