長根英樹 メッセージ
 ― 論文&マスメディア掲載 ― 

ネーミングライツ(命名権)と公共心、和の心 ― 岩手公園改名問題を考える
 

『ネーミングライツ(命名権)と公共心、和の心 ― 岩手公園改名問題を考える』
                               2006.08.10


昨今、施設や事業等の名前を収益手段、ビジネスとして捉える「ネーミングライツ」
という考え方が盛んになってきています。
従来も、イベントや競技大会等の名前の冒頭にスポンサー名をかぶせる、いわゆる
「冠(かんむり)イベント」などの例はありましたが、最近の大きな特徴として、
こうしたビジネス化が私的な施設や事業の名前だけでなく公共的なものの名前にま
で及んできている点が上げられるものと思います。
現状ではこうした取り組みを、施設の建設費などの初期費用、また運営費用の一部
として充当する新たな資金調達策との観点から、先進的な行政運営、地域経営の手
法であると肯定的に捉えられている面がある様に見受けます。
しかしながら、民間の経営手法を公、行政にも応用していくという考えの中で、売
れば金になる、金になるものを売らないのはもったいないく非効率経営であり、そ
れが行政の拙さ、勉強不足だと発展させていくならば、今後は、公的な役職名さえ
も、冠やミドルネームとして売ることになっていくかも知れません。例えば、「岩
手県ライブドア知事 ○○」「外務楽天大臣 ○○」など。
日本においては古来から、「名は体を表す」「名を惜しむ」「言霊(ことだま)」
等のかたちで、言行の一致を重んじ、言葉や名と実際の在り様を切り分けて考えな
いという文化があるものと思います。
名や言葉の影響力は大きく、名や言葉と離れた形で実態を正しく保つのは容易では
ない。名や言葉を大切にし、誇りの概念や恥の概念を活かし、公私の峻別を厳しく
行うことによって、適正な運営、実態が生まれてくるとの考えです。それ故に、開
き直りを無責任な見苦しい態度と諫める「恥を知る」との美徳が重んじられてきた
ものと思います。
現在のネーミングライツの動きからは、こうした伝統、先人の知恵を軽んじる姿勢
とともに、勝ち組負け組の格差社会、経済至上主義、効率、収益第一、マーケティ
ング、ビジネス、お金優先などのキーワード、風潮の下で、名前や言葉に込められ
た非常に大切なもの、すなわち公共心、歴史、先人の蓄積に対する敬意を、目先の
利益、短期的な視点で簡単に換金化していく「公の切り売り」という愚かさが感じ
られ、危惧の念を強くするところです。

岩手県においても、県民の憩いの場である岩手公園の事実上の名称変更、命名権の
問題が大きな議論となっています。
この問題の本質、究極は、「時の法律」と「伝統、歴史、文化、蓄積」のどちらを
重んずるか。
法制を運用するに際して、いかに歴史や伝統の資産を活かしていくかという姿勢の
問題になるものと考えます。

この問題を議論する際のキーワードとして「100年の歴史」という言葉、捉え方
を耳にします。
確かに1906年の開園、岩手公園という名称になってからの歳月を数えるなら
100年になるでしょう。
しかしその100年前の取り組みにおいて、県民の公園としての開園、岩手公園と
いう名称決定は、それ以前の歴史や伝統と無関係な形で執り行われたのでしょうか。
否、岩手の歴史、伝統を踏まえて、先人の思想、精神、想いをも込めて名付けられ、
開園されたものであると思います。
命名後の100年分の歴史にしか想いを致さない、価値を見出さないというのは、
命名時までの歴史、先人の積み重ねの尊さ、命名時における幅広い観点からの意見
集約の重みを軽視するもので、先人の蓄積に感謝する保守、伝統主義の態度とは言
い難いものと思います。
今回の県民公園の名称変更問題を、南部藩、盛岡藩と明治政府との関係、歴史的経
緯の面から捉え、「盛岡」復活の義を唱える論調も見受けられますが、県民に呼び
かけて県の名称を変更、復活させようという根本的な幅広い取り組み姿勢や議論は
見られません。
岩手県の県民公園として岩手公園が名付けられたもので、盛岡県の県民公園が岩手
公園となったものではありません。
今後県名の改正を目指し、「盛岡県」の県民公園の名称を「盛岡公園」等に改名し
ようということであるならば、そうした本格的な歴史の見つめ直しを正々堂々と唱
えるのであれば理解を得られる面もあるでしょうが、物ごとの順序、大義小義(私
義)を取り違えた議論、論法に県民の共感は集まらないものと思います。
自らの論法に合わせ、盛岡藩の歴史、地域の伝統を私物化し良いところ取りするご
都合主義の発想を感じるところです。
また、市当局側からは「100年先の将来、これからの100年を見据えた街づく
り」といった言葉も耳にします。しかしながら、6月にわずか9名の懇話会を設置
し、夏休みお盆期間をはさんだ3ヶ月ほどの議論検討の後、9月に発表するという
方針を聞き、議論の幅の広がりと深さ、費やす時間の面で、いかに軽い100年計
画なのかとその拙速さと安易さに驚くばかりです。
(実際の懇話会の開催は、6月26日、7月14日、8月4日の3回のみ。
 8月下旬に市議会全員協議会で“説明”し、9月15日の岩手公園開園記念日に
 新名称を披露する方針とのこと。)

県民の公園、岩手公園の管理は、昭和9年に県から盛岡市へと移管されました。
今回、公園の実質的な名称変更は、「愛称」という形で盛岡市、市行政の判断で行
われようとしています。
岩手公園の正式名称、都市計画法に基づく名称は、市に改正の権限はなく盛岡市行
政の単独の判断で変更することは出来ません。しかし、盛岡市当局は、「愛称」と
いう形で公的な標識、案内板、パンフレットなどに新名称を使用し、実質的な改名
を行おうとしています。
こうした改名、愛称制定が許されるならば、「岩手県」ではなく「イーハトーブ県」
の名称を使用したいとする動きも容認されることになります。
法の抜け穴として現在の法律では認められている状況。そして歴史や伝統への配慮
なしに、盛岡市以外の県民の意を汲むことなく進めることを制限する法律もないと
いう状況。
しかし、法律で許されれば、法律で禁じられていなければ、何をやっても良いとい
うものではありません。
同じ法制下で、歴代の市長、市行政においては行われてこなかったことです。
この思考、行動論理の差をどう考えるべきか。
法律や制度は大切ですが、それ以外にも文明社会には暗黙の了解、紳士協定、ある
いはもっというなら、基本的なわきまえ、嗜み、常識、公序良俗という大切な共通
規範があります。これらを大切にするのが大人の振るまい方であり、そうした積み
重ねによって形成されてきたのが地域の文化になるものと思います。
成文法だけでなく慣習法、太い常識を常に意識することが、歴史を踏まえた文明人
の態度であり、こうした精神資産を長い年月の間にもたらしてくれたのが先人です。
感謝と敬意をもって常識、伝統を大切にすべきと考えます。

県都とは言え一自治体が、限られた時代の、限られた地域の民意によって、短期間
で、歴史や伝統によって大切にされてきたものを、狭い利益、浅薄な損得勘定に
よって私物化するという現在の盛岡市の政治行政運営の姿勢は、「法律で許されれ
ば、法律で禁じられていなければ、何をやっても良い」「法律の範囲内でお金儲け
することの何がいけないのか」「だめなことなら法律の抜け穴を閉じて置くべきだ」
というライブドア堀江被告、村上ファンド村上被告の言動、思考、現在のお金至上
主義の風潮と重なります。
「正式名称」の変更ではなく新たにつける「愛称」であるという論理からも、歴史
や伝統を軽視した誤魔化しと開き直り、半身の姿勢が見受けられます。正々堂々と
いう精神、姿勢が感じられません。

お金至上の世の中は、誤魔化してでも儲けたものが勝ち→誤魔化しにごまかしで対
抗→自己中心的な振る舞いにより悪貨は良貨を駆逐するという状況になり、倫理は
崩壊していきます。
伝統や常識を踏まえ、暗黙の了解を重んずる正直者が居場所を無くし、やったもの
勝ちの無遠慮者が勝利するという世にしてはなりません。
短期視点の狭い時代感覚、狭い地域、狭い利益、狭い役人集団による「公の切り売
り」を、先人と将来の子孫に対する現代に生きる者の責務として断固阻止しなけれ
ばなりません。

この問題は、「和の心」が問われている問題だと思います。
先人の積み重ねを尊び感謝し、世代を預かる意識で晴れとケ、公私の区別を重んじ
てきた文化。
金のために本質を曲げない、私利私情や影響力を排する、けじめを明確にする、純
度や純粋さを大切にする価値観。
まさに岩手の心、岩手の政治が問われている問題だと思います。
政治家の役割、存在意義としては、法制の整備運用面のみならず、文化的な「感化
力」が求められるものと考えます。自らの思想、理念、哲学、実際の言動を背景と
した社会に対する肯定的な影響力、共感を広げていくことによって社会を動かす力
が求められるものと考えます。
県選出の議員、首長には、この問題に関して、世代を預かる意識、公共心、和の心
について、政治家としての識見の披瀝を期待したいと思います。
                                   以上



長根 英樹 ながね ひでき
岩手県奥州市(水沢区)出身
小沢一郎政治塾1期生(2002年卒)
きもの和文化プロデューサー





【ご参考 ― 岩手公園改名問題に関して】
  日本記者クラブ 地方発
  “岩手公園”名称変更問題:県民に納得いく議論の材料提供を
  岩手日報社報道部 志田澄子氏のレポート


【ご参考 ― 長根英樹 和の心】
  論文  和の国、和の心 ― 天皇陛下と日本

  論文  日本国憲法と武士道精神 〜 和の心による国づくり  


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